ユーザー訪問④: ハウゼコ社長・神戸が聞く!
パッシブ設計の第一人者・松尾和也氏( 株式会社 松尾設計室)
屋根換気部材メーカーハウゼコとの出会いは衝撃でした、森下誉樹氏(株式会社 モリシタ・アット・ホーム)
換気部材をこんなに付けているのは…小暮徳行氏(有限会社 子育て世代の家設計室)
インタビュー本番前の 建築よもやまバナシ
神戸:熱心なメンバーが集まったワケで、本番前に自然発生的に建築の話が始まっていました。
その長さ2時間近く(!)、ここでは主な話題を紹介するにとどめさせてください。
- 風、雨による自然災害に向き合わなければならないこと
- 台風の発生回数は減る、強度は増す、日本列島の東よりになる…ということ
- 工事中の材料の雨濡れは、結露事故の原因のひとつであるということ
- クレームが工務店の利益を圧迫することに経営者は気付くべきだということ …etc.
屋根換気部材メーカーハウゼコとの出会い
神戸:それでは本日の本題ということで(笑)。
ハウゼコとの最初の出会いをお話ししていただけますでしょうか?まず松尾社長から。
松尾社長:確か5年ほど前、住宅建築情報誌で ルーフバルコニー立ち上がり部の防水性能
は納まりによって大きな差がある という記事があって、それを見て漏水量がぶっちぎりで
少なかったハウゼコさんに連絡させていただいたのが最初です。
神戸:そうでしたよね。実はあの記事なんですが、6つの試験体の中で手すり壁に換気部材(ア
ンタレスミニ)をつけた弊社仕様の納まりの試験体の漏水量が最低でした。(*33P参照)
連絡を頂いて私が松尾社長の事務所にお伺いさせていただいたんですね。で、ハウゼコと知
り合ってから、松尾社長のなかで何か変わったことがありましたら…
松尾社長:それまでそんなにどこのメーカーのものが…、というふうには意識をしていなかっ
たんですが、「暴風・暴雨」時の漏水に関係する性能差を考えるようになりました。で、その
後、ハウゼコさんで設計を標準化しました。なんといっても雨漏りは一番おこしてはいけな
いハードクレームですから。
神戸:松尾社長には、以後、製品開発に協力していただいたり、社団法人(後述)の研究会
設立に当たって理事就任のご無理をお願いしたりというお付き合いをいただいております。
この話は後ほどお願いいたします。
それでは森下社長のハウゼコとの出会いをお聞きしたいと思います。
森下社長:住宅建築情報誌のセミナーがハウゼコさんの加西工場で開催された時に、参加させていただいたのがお付き合いの最初ですね。でも、実は松尾さんが来られるというので「断熱」の話だと思って行ったんですよ。行ってみたら「耐久性」に関係する話で…。つまり勘違いでセミナーに参加させていただいたことで始まったお付き合いなんです(笑)。
神戸:ああ、そうでしたね!その時、衝撃を受けられたということも…
森下社長:それはルーフバルコニーのことですね。その日まで普通に何百件も当時の推奨工法のひとつであったサイディング材を手すり壁天端に水平に裏貼りするバルコニーの施工をしていたんです。(注・現在は推奨工法ではない)ところが、そのセミナーで「それは大間違い、危険」だと!
いやもう青くなりましてね、即日・施工中だった物件のバルコニー壁を剥がしやり直しました。「何があかんねん?」という職人さんと摑み合いになりそうになりながらですね(笑)。私は耐久性が売り物のハウスメーカーの指定工務店だったこともあり、自信があったものですから本当に衝撃的でした。
神戸:施工中のを…ですか。いや、森下社長らしいエピソードです。あのセミナーは弊社のアンタレスミニで「手すり壁の標準的納まり」が日本で初めて完成し、それをお知らせするものでしたから。
森下社長 : そうですね。なにしろ私は「通気」と「止水」はトレードオフみたいなものだと思っていたんですね。どちらかを大事にするなら当然「止水」だろうと。それをあのセミナーで「通気の確保と確実な防水を高度に統合できるアンタレスミニ」とバシッと答えをいただいたものですから衝撃的だったんです。
神戸:森下社長には弊社加西工場内の「国土交通省高度化事業で採択された耐久性実証実験棟」の建設に協力いただきましたね。
森下社長:ああ、あの実験棟の建設も私には衝撃的な体験でしたね。換気ありと換気なしの二区画にわけた三方パラペットキューブ型住宅でした。
それが築後2ヶ月という短期間で、換気なし区画の小屋裏が結露でひどい状態になってしまって…
点検口を開けたらどす黒い水がボトボトと落ちてきて…それが意図した状態だということでしょう
けれど、換気が取れていないということがこれほど危険なこととは!…と、大変恐ろしくなりました。
それで大工棟梁、職人共々ハウゼコさんのセミナーに参加したり、積極的に勉強したりするように
なりました。
神戸:森下社長は通常の仕事でキューブ住宅は極力請けないということでしたから、あの実験棟で
初めて換気・通気しないキューブ住宅が危険だということを実感されたんですね。
それでは小暮社長、ハウゼコとの出会いや関わり合いについてお願いします。
小暮社長:正直言いますと、以前は例えば下屋の間に溜まった湿気はどっかへ勝手に抜けていくん
だろう…そんな程度に考えていたんです。(ここで森下社長からも、僕もそうだったなあ、という声
あり)
神戸:それが普通なんです。事故につながるということを私たちも伝えきれていないんです…
小暮社長:それが、四年前、森下さんに誘われて、松尾さんが講師だったセミナーにハウゼコさんの加西工場へおうかがいしたことがきっかけで換気や通気ということを意識しだしたんです。その時に神戸さんが「下から入った空気が重力換気の作用で棟から抜けて…そんなイメージで考えられていませんか?…でも実は、そんなに都合よくは抜けないんですよ!
「日本の家は換気量が全体に不足していますよ。」と、おっしゃった。また、発煙筒を焚いて煙を実際に流すと棟から逆流することがあると…それを聞いてから、考えられるところにはすべてハウゼコさんの換気部材を付けるようになりました。
今では板金屋さんから「そんなにたくさん換気部材をつけている家は他にはないよ」といわれます。
神戸:ご採用ありがとうございます。
ところで小暮社長、外国では換気量を屋根形状や勾配ごとに分けて定量的にルール化しています。屋根形状や勾配ごとに細かいルールを決めて、その手法をわかりやすい図にして表現しています。
小暮社長:ぼくらも「はっきり」したことを知りたいんです。例えば、小屋裏換気量はどれくらいが必要なのか?できれば発煙筒の実験をこの目で見て確かめたいですね。神戸:よくわかりました。小暮社長、そのあたりのことですが、ぜひ研究会でやりたいと思います。きっと疑問のひとつひとつが「はっきり」と解き明かされると思います。ありがとうございました。
屋根のパラダイムシフトについて
神戸:せっかくですからみなさんに耐久性に関わるテーマで討論いただこうと思います。松尾社長、口火を切っていただけませんか?
松尾社長:はい、それでは「壁で起こったパラダイムシフトと屋根」ということをテーマにしましょうか。30年前、外壁の透湿防水シートはまだぼちぼちという状態だったと聞いています。外壁もサイディン
グとモルタルと半々だったようです。それでモルタルは通気層なしの直張りが主流でした。それがサイディングの普及とともに通気工法が増えていったんです、しかも急激に。森下さん、実際に体験されておられると思いますがどうでしょうか?
森下社長:モルタル直張りから通気工法への当時のシフトは劇的でしたよ。世の中ほんとうにあっというまにバタバタと通気工法に変わりましたよね。それまでサイディングであっても、通気層も透湿防水シートもなしで建てていた人が、「これはダメだろ」ということになって、それで、通気工法が急激に進んだんです。
神戸:ターニングポイントは平成8年の阪神大震災でしたね。
松尾社長:ぼくは震災の被害情報をもとにみんなに「通気層がない壁の家は危ない」という実感が生まれたからこそ、通気工法へのシフトが急激に進んだんだと考えています。そして過去に壁で起こったパラダイムシフトが、これから屋根で起こってほしいとぼくは思っているんです。
神戸:その屋根のことですが、片流れ、ガルバリウム鋼板、ゼロ軒、屋根断熱が増えています。
松尾社長:ガルバリウム鋼板・立平葺きの屋根は防水性は良いのですが、屋根材と野地の間に普通は通気層がありません。外壁材と躯体の間には通気層があるのに…。結露や漏水時の水分の排出のための空間、すなわち通気層にあたるものが屋根にはありません。そこで屋根材と野地の間に通気層を形成するために網状体と呼ばれる下地材を用いたり、二重野地構造にしたりと、みなさん色々工夫しているのが現状なのですが、コストや手間がかかることと、マニアックな手法であることで一般に広がらないんです。誰でも、普通に標準的な納まりとして使える方法が必要です。
すべての住宅が壁の通気工法のように屋根の通気工法を普通のこととして行うようになる…そんなパラダイムシフトを起こさないと!
森下社長:そうですね、そのためには技術開発と製品化が必要ですね。現場で現在ある資材を職人の手で工夫して加工して使って…というのは限界があります。すべての現場で安定的に、ということを考えるとやはり専用の製品をハウゼコさんのようなメーカーさんに開発してもらわないと。
神戸:よくわかります。松尾社長のおっしゃるパラダイムシフトの波を早く広く起こすことも、森下社長のおっしゃる安定した製品を供給するのも、わたしたちメーカーが努力しないといけませんね。屋根の通気標準工法、これについてはハウゼコが近い将来、必ずお答えいたします。
…あっ、言っちゃった!(笑?)
研究会について
神戸:では最後に、一般社団法人 住まいの屋根換気壁通気研究会(以下略:研究会)について どう感じておられるか ということを、理事をお願いしています松尾社長からお聞かせくださいませんか。
松尾社長:ぼくは大学での専攻は熱環境だったんです。だからこれまでそこを頑張ってきたのですが、今、感じているのは日本には「耐久性」の分野を研究しておられる方があまりおられないということなんです。断熱などは、毎夏、毎冬、暖かい・涼しい・光熱費が下がるというふうにその結果を体感できますけど、耐久性は30年後とか、もしくは大きな災害が起きた時に初めて結果が出るという分野なんですね。だからすごく大事だけど、すごくアピールが難しいものなんですね。
そんな「耐久性」について研究会では諸先生方や関係メーカーの最新の知見を得ることができ、また、情熱を持っていろいろな分野の方と話し合える機会をもらっているということが幸せ、かつラッキーなことであると思っています「人生100年」と言われる今、家を30年ごとに建て替え、リセットするという時代ではありません。だから「耐久性」はとても重要なことです。この研究会に多くの方が参加することで「耐久性」への関心が高まり社会に広がるきっかけになると期待しています。
神戸:松尾社長、ありがとうございました。日本の住宅が長寿社会における耐久資産となるようにこれからも頑張りましょう。
本日は本当に長時間、お忙しい皆様に時間を割いていただいてご協力いただきにました。
色々な視点、立場からのご意見を頂戴し、価値あるインタビューとすることができました。
ありがとうございました!